遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

「本格派ピロシキ」(院試日記 72日目)

大阪に越してきた1年目の夏、朝に聞こえる蟬の声が信州のそれとは違うことに驚いた。長野県においては夏の朝に鳴く蟬はみんみん蟬だと相場が決まっていた。ところが関西ではジャアジャアという声が聞こえるのである。ああ、これが熊蟬の声なのか—そう思った。当然大阪の夏は信州のそれよりも暑いのだが、熊蟬の鳴き声はそれを引き立たせているように思えた。
今年もそんな季節が来たのだ。

朝、寝不足の体を少しでも起こすために家から北に向かって自転車を走らせた。坂はそこそこにきついが降りるほどではない。鈍った体を動かすにはちょうど良い。尤も、高温多湿な空気は堪えたが。熊蟬の声を聞きながら坂をのぼり終えると府道に出る。せっかくなので道沿いパン屋に寄ることにした。特段特徴があるわけではないが定冠詞をつけたくなるような町のパン屋といった様子のその店を、ぼくは密かに気に入っていた。
焼き上がったばかりのメロンパンと海老カツサンドをトレイに載せ、もう一品選んでいると、ある一つの商品が目に入った。
「本格派ピロシキ
ほう、「本格派」ときたか。まず町の普通のパン屋さんにピロシキが並んでいることが意外であった。関西にはかつて「パルナス」というピロシキの店が展開されており、かなりの人気を誇ったという。それを考えると案外ピロシキは身近な食べ物なのかもしれない。いやはや、茶色く綺麗に揚がったラグビーボール型のピロシキは食欲をそそるものだ。僕は迷わずトングでその1つを掴んだ。

帰宅するとコーヒーを淹れ、ピロシキを軽くトースターで温めた。かりっ、と軽い音を立てる生地のその中には、果たして春雨が入っていた。その他の具材は玉ねぎ、挽肉、卵など。なるほど「本格派」である。渋谷ロゴスキーがはじめに考案し、その後全国へ広まった「春雨入りピロシキ」は確かに「本格派日本風ピロシキ」と呼ぶにふさわしい。
この由緒正しき日本風のピロシキはなかなか美味しいし、何よりその気取らなさが町のパン屋さんには似合っている。また今度見かけたら、ぼくは迷わずトレイにそれを載せるだろう。

今日(7/20)の記録
独語予習 1h15m
独文解釈 1h4m
独語論文 1h3m
美術史(初期ルネサンス) 1h1m
計 4h23m