遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

ひと段落(院試日記 137日目)

夜9時に布団に入ったのに少しも眠れなかった。たぶん、深夜2時までは起きていたと思う。筆記試験が朝9時から始まることを思うと寝坊する危険すらある時間だ。本当は早めに起きて軽く勉強するつもりだったのに、結局朝6時と言う至極真っ当な時間に起床した。
単語をさらいながら濃い目のコーヒーを飲む。緊張で胃液が湧き上がるのをなんとか抑えようとするのだが、結局トイレに駆け込む。まだ試験会場にもついていないというのにこの体たらくである。
7時50分、少し早めに家を出た。曇り空の下の住宅街はやけに静かだった。通りでは高校生の集団が自転車を学校へと急がせているというのに、妙なことだ。おそらく、これはぼくの心持ちのせいなのだろう。ことことと走る阪急電車を横目にぼくはゆっくりと大学へ向かった。跨道橋を超えた先の坂道はいつもより長く思えた。
入室が許可されるのは8時半からだが、15分も早くついてしまった。早く来たのはぼくだけではないらしく、試験会場の講義棟入り口付近にはまばらに人が集まっていた。仕方なく少し離れた芸術研究棟の外階段の下で単語帳をめくった。研究室の同期を見つけて話しているうちに扉が開き、ぼくたちは数ヶ月ぶりに講義棟へと入って行った。

はじめは1時間の外国語試験。西洋美術史学志望者は仏独露伊西のどれかを選択する。ぼくは独語を選択した。
問題配布から開始までの10分少しはすることもないので、とりあえず脳内で2016年の課題曲と自由曲を再生して暇を潰した。
試験開始後、まず驚いたのは試験用紙の入った封筒がセロハンテープで留められており、思いの外開けにくかったことである。次に問題数が例年の3題から2題へ減っていたことにも面食らった。印刷ミスか用紙不足か、どちらかを疑ってしまった。問題は独文和訳のみで内容はそこまで難しく無かったが、そこは独語が苦手なことに定評のあるぼくである。分からない単語はいくつもある。落ち着いて記憶を辿り、文脈を吟味し、単語を分解し、なんとかそれらしい日本語を書いた。ちなみに直前に独語のレッスンで読んだ文に「紙売り」が出てきたのだが、奇跡的というべきか「羊皮紙売り」が文中に出てきたことには思わず泣きそうになった。
ということで、なんとか大きくやらかした印象もなく外国語試験は終わった。解答用紙の回収と確認に時間がかかっており、この時間が院試の中で一番長く思えた。

続いて2時間の専門試験。今年度は例年2コマあった試験が1つに統合されたので形式が分からないという意味で少々緊張した。結局、一部の問題が無くなり圧縮されただけだったのでそこまで恐れることもなかったのだが。
単語問題は易化しており正直助かった。英語は例年並み。骨子は掴めたと信じている。図像解釈問題は正直怖かったが、後で確認したところ友人と解答内容がほぼ一致していたのでひとまず安心した。
2時間はすぐに過ぎた。筆記試験全体を通して大きなミスをしたように感じないのが逆に怖かった。

口頭試問前の休憩時間では昼飯を久々の学食で食べながら、友人と大学院で何を研究したいかお互いざっくりと話した。このご時世故パーテーション越しに、である。

口頭試問は30分間に及んだらしい。個人的にはそんなに長かった感じはしなかったのでびっくりした。内容は筆記試験の結果と今後の進路・人生設計についてであった。どうやら十中八九は大丈夫そうである—結果発表は2週間先なのでなんとも言えないが。
ところで、事前に提出した研究概要についての言及がなかったので恐る恐る聞いたら「またゆっくり話す」とのこと。こってり絞られそうな予感である。

まあとりあえず院試は終わった。結果はまだ分からないが今更することもないのでゆっくり休むとしよう。