遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

なぜか気に入っているものの小辞典

大阪駅前第二ビル

大阪駅から南下し、北新地駅の手前あたりにあるビルである。ちなみにぼくは地下からしかアクセスしたことがない。地下二階のテナントのほとんどは金券ショップ、飲み屋、喫茶店であり、それがなんとも言えない雰囲気を醸成しているのだ。安い切符を求めてショーウィンドウを除く人々、まだ明るい時間から酒を飲む人々、薄汚れた窓越しに感じるコーヒーと煙草の匂い(個人的に煙草は反吐がでるほど嫌いなのだが、この手の喫茶店の煙草だけは許すことにしている)。そこには「人生」が転がっている。あの妙に頽廃的な、アンダーグラウンドな雰囲気はかなり好ましいものである。

ついでに地上階には三木楽器ローブラスセンターと楽譜のササヤ書店が入っているのもポイントが高い。

 

・名古屋

「名古屋には何もない」とはよく言われた話である。なんなら、名古屋市民ほどそういう。ただ、ぼくはこの都市を妙に気に入っている。不幸にも話題になってしまった「あいちトリエンナーレ」の開催趣旨において、愛知という場所の微妙な立ち位置について書かれていた。つまり中心であり、かつ地方であるという立場である。名古屋という都市はもちろん三大都市の一つであり中部地方の中心である大都会なのだが、同時に東京・大阪にはなぜか一歩及ばないみたいな雰囲気がある。僕はそこに魅力を感じてしまう。JRの快速を乗り継いでわざわざ名フィルを聴きに行くのはこの街になぜか愛着があるからでもある。

ただ、以前夜行バスまで時間があるので夜に栄から名駅まで歩いたところいかがわしい客引きにしばらくしつこく話しかけられた。夜は気をつけようと思った。

 

・イイダヤ軒の天ぷら蕎麦

松本駅前、飯田屋旅館一階の蕎麦屋である。高三の頃、塾での勉強に疲れるとよくここに来て三八〇円の天ぷら蕎麦を食べたものである。ちょっと辛いくらいの濃い目のつゆ、少しぼそっとした食感の蕎麦、しなしなしたかき揚げ。めちゃくちゃ美味しい訳ではないと思うし、信州人としてはあれを信州蕎麦だと思って欲しくはない(そもそも信州の蕎麦屋は普通冷たいものを年中メインに提供する)。しかし、あれは紛れもなくぼくの思い出の味なのだ。夜中の空きっ腹に味が濃く、お腹にたまる天ぷら蕎麦はよく効いた。湯気の中で一人働くおばちゃん(毎日同じ人ではない)、仕事終わりのサラリーマン、休憩中のJRの職員、古びた店内。その雰囲気も好きだった。受験前、氷点下の夜でもわざわざ食べに行くほどに好きだった。どうかあの味は変わらないでいてほしい。