遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

年暮る

クリスマスのあたりから「今年ももう終わるなあ」などと思い始め、そう言っている間にすぐに年が明けてしまうのだろうと、そう思って過ごしていたのだが、案外クリスマス明けから大晦日までは時間的猶予がある—そんな不思議な感覚を味わいながら、2023年最後…

小説を書こうとしていた

昨年の秋のことである。提出まで三ヶ月を切った修士論文そっちのけで、私は原稿用紙に向かっていた。 小説を、書こうとしていた。 私の部屋には、書きかけの原稿が残っている。結局四百字詰め原稿用紙二十二枚分しか進まなかったのだが、その頭には小説の構…

秋に淋しき者

夜8時過ぎ、自宅への最寄駅に着いた足は自然に駅前のコメダ珈琲店に向かっていた。家に帰りたくなかった。コメダに逃げ込めば、少なくとも10時までは精神的亡命が許される。 3時間ほど時を戻そう。その頃ぼくはまだ横浜にいた。文明と云うのは大したもので、…

ゆるやかな下り坂

例えば、歩きスマホなんてしながら美学棟の階段を下っていたせいで、足を踏み外す。そのまま階段を転げ落ちてしまい、命を落とす。 そんなふうに、死んでしまいたいと思った。 春というのは往々にして早く過ぎ去るものだが、今年の四月は少し違った。なぜか…

春過ぐ

こんなはずじゃあ、なかったんだけどなあ……と、それっぽい台詞を吐いてみる。 時刻は夜七時半過ぎ。過ぎ行く春の夜、今日もぼくは何も生み出せずに一日を終える。たぶん、こんな毎日を死ぬまで続けて、何者にもなれないまま終わるのだろう。自室に―見るのが…

中欧歴史的新聞/雑誌データベース・アーカイブ等(β版)

ドイツ、オーストリア、スイス、チェコ等の新聞/雑誌のデータベース・アーカイブ等の覚書のようなものです。自分が修論を書く際、そもそもどこにどんなデータベースがあり、何が見られるのかの情報があまりなくなかなか苦戦したので、新聞/雑誌を一時資料と…

難儀

多くの知人が参加しているオーケストラの演奏会を聴きに行った。 その帰り、僕は死にたい気持ちになった。演奏が悪かったのではない。むしろ、大変素晴らしいものだった。高い精度まで洗練されたアンサンブル、個々の技術、熱量、どれをとってもアマチュア・…

ご報告(院試日記Ⅱ 後日譚)

大学院博士課程、合格しておりました。合格発表の日、僕自身は東京におり、さらに弊学弊研究科はホームページに合否を掲示してくれないため、怯えながら美術館や演奏会に行っておりました。晩に一緒に博士の試験を受けた方から合否の掲示の写真をいただき、…

新宿の思い出

今日から三日間、オペラ公演と演奏会の鑑賞のために東京に滞在する。初日は初台の新国立劇場で『タンホイザー』。初台は京王新線で新宿から一駅だが、歩いても15分程度で行くことができる。宿も新宿駅から徒歩圏内のビジネスホテルにしたので、今日は新宿で…

院試のあとで

去る2月2日、無事(?)大学院入試を終え、今日は一日中ダラダラと過ごしていた。 2月はなんだかんだ忙しく、今後会期終了の迫る李禹煥展に行く時間が無さそうなことに気づき、今日行っておけばよかったと後悔している。 さて院試だが、筆記試験は例年通りの…

古き、悪しき歌よ(院試日記Ⅱ 16日目)

博士の試験が明日に迫る。その実感はあるのだが、妙に緊張感がないというか、ふわふわした気持ちになる。その一方で急に吐き気を催したりしているあたり、意外と心の底では緊張しているのかもしれない。 最後にもう一度過去問でも解いてみようと思い、時間通…

古いお伽噺から手招きする(院試日記Ⅱ 15日目)

奨学金の申請書を急いで出し、そのまま研究室で夜まで勉強をした。準備期間の短さと勉強時間の少なさの割には、読む予定でいた文献は読み終えられたのでちょっと自信になった。今日のドイツ語の文章は割とすらすら読めたこともあり、少々気分が良い。しかし…

夜ごとに夢で君を見る(院試日記Ⅱ 14日目)

(1/30の記録です) 本日は夜から予餞会があるのに加えて5限も入っていたのでなかなか忙しかった。ここ1週間院試の勉強に手いっぱいになっていたのもあり5限の予習が後に回っていたので、昼まではずっとその予習をせねばならなかったし、午後は午後で予餞会…

ぼくは夢の中で泣いた(院試日記Ⅱ 13日目)

(1/29分の記録です) 本日はオーケストラの練習でほぼ一日潰れてしまうため、勉強は出来なさそうだ。本当は早起きして独分和訳の一題でも解いてから行こうと思っていたのだが、昨晩気絶したように眠ってしまい、起きたら遅刻寸前の時間だったのだ。 練習場…

光輝く夏の朝に(院試日記Ⅱ 12日目)

予定通り早朝に家に帰投し、一休みしてから大学へ向かう。深夜から朝にかけてそれなりの雪が降ったようで、あちらこちらに3センチばかりの雪が積もっている。学食の前の芝生では子供たちが雪遊びをしており、立派な雪だるままで出来上がっている。年に数回の…

ある若者があるお嬢さんに恋をした(院試日記Ⅱ 11日目)

雨と雪ならば、気持ち雪の方がマシだと思ってしまうのは、僕が長野県松本市という微妙な土地で育ったためだろう。松本の年間降雪量はそれほど多くなく、とは言っても東京や大阪よりは雪への備えはあるために、交通やインフラが寸断されるということはあまり…

歌の響きをぼくが聴けば(院試日記Ⅱ 10日目)

心理状態の振れ幅の制御が効かないので、今日も1日の半分を漠然とした絶望感の中過ごしていた。院試の勉強が厭になる、ということは本心では自分には進学の意図がないのではないか?と疑いたくもなる。これはある意味では正しいのだろう。やりたいことなんて…

あれはフルートとヴァイオリン(院試日記Ⅱ 9日目)

本日(1/25)は修論の口頭試問。前日までは、いや開始1時間前までは余裕綽々だったものの、いざ試問会場のドアを開けるタイミングになるとひどく緊張してしまう。 修士論文の内容について、3名の教授から質問や感想、意見をいただく。やっていることはゼミで…

そして小さな花々が知ったならば(院試日記Ⅱ 8日目)

北摂に、おそらく今年はじめての雪が舞った。仮にも信州人なので、(育った街は県内ではあまり雪の降らない地域とはいえども)べつに雪は大して珍しくはないのだが、それでも少し心が弾んでしまう。つくづく、僕は単純にできていると思う。 大雪で阪急やモノ…

ぼくは恨まない(院試日記Ⅱ 7日目)

今日は昼に修理に出していた楽器を引き取りに神戸に行き、その後ドイツ語の演習を受けていた。修理に出した先のお店は阪神沿線にあるのだが、阪急宝塚線沿線に暮らす自分にとっては実際の距離以上に遠いような気がする。大阪から尼崎、西宮、芦屋を経て神戸…

ラインに、その神聖なる流れに(院試日記Ⅱ 6日目)

午前中に予定があると否が応でも起きねばならないので、怠惰な人間にとっては有用である—尤も、寝坊の危険が伴うが。 今日は午前中にロシア語の読書会があったため、起きたら昼!という悲劇を免れることができた。現在はゆっくりではあるがツルゲーネフの短…

ぼくの心を沈めたい(院試日記Ⅱ 5日目)

後ろの座席の方から下品な笑い声が聞こえて来る。僕は今、名古屋から大阪に向かう近鉄特急に乗っていた。実際の声量以上にうるさく聞こえる団体客が同じ車両に乗り合わせていたのは失敗だった。仕方がない。座席を取るときにそれはわからないのだし、彼らに…

ぼくが君の瞳を見つめれば(院試日記Ⅱ 4日目)

またしても生活習慣が崩壊してしまい、起きたら昼を回っていた。今日は研究室に顔を出すつもりだったのだがちょっと厳しそうだ。起きるのが少し遅くなるだけで、家を出るのは一気に億劫になる。 5時過ぎ、ようやく家を出た。大阪フィルの定期を予約してあっ…

薔薇も百合も鳩も太陽も(院試日記Ⅱ 3日目)

去る秋のこと、新国立劇場の舞台の演目に『レオポルトシュタット』なる作品を見つけた。世紀末から第二次世界大戦後までのウィーンのあるユダヤ人一家を描いた芝居、ということで大変興味をそそられた。日程が合えば観てみたかったのだが、あいにく東京行き…

ぼくの涙から芽生えるは(院試日記Ⅱ 2日目)

一昨日から自宅のWi-Fiが急に使えなくなり、ここ2日ルーターを再起動したりモデムを再起動したり色々弄ってもなかなか直らなかったのだが、今日もう一度試してみたら復活した。本当になんだったのだろう。ネット環境がなくなるのは単に不便なだけではなく、…

素晴らしく美しき五月に(院試日記Ⅱ 1日目)

目が覚めたら昼過ぎだった。今日は早起きするぞ、と思っていたのにやっぱり寝坊してしまったのだ。結局昨晩もなかなか寝付けず、朝になってようやく眠りについたのだから自業自得である。午後にゼミがなければ夕方寝ていた可能性すらあると思うとゾッとする…

今朝、野を行けば

修論を提出して10日が経つ。すっかり気が抜けてしまったのだが、実は来月の頭に院試があり、わずか2週間少ししか準備期間が残されていないので案外余裕はない。修士課程を受ける際は一応半年ほどかけて準備したのだが、今回は気づいてみたらそんな時間はなか…

そして年が明けた

修論日記を続けるほどの余裕がないまま月日が流れてしまいました。先日無事修論を提出しましたが、口頭試問までは二週間ほどあるので気は抜けません。絞首台の上で首に縄をかけられつつも、足元はまだ台の上についているような、そんな気分です。 修論を書く…

Muss es sein?(修論日記 15-16日目)

土曜日に、知人の誘いでミラン・クンデラの研究会に参加した。参加、と言っても僕はただの読者に過ぎないので、研究者の方々の話を只管に聞いていただけではあるが。 さて、クンデラという小説家を好きか、という問いに誠実に答えるのは、僕にとっては難しい…

夜のいちばん高いところ(修論日記 11-14日目)

阪急梅田駅は、終電が近づくと『第三の男』のテーマが流れる。かくいう私は当の映画を観たことはなく、小説版を読んだことがあるのみである。だから、この作品に対して私が抱く視覚的イメージは、全て私の想像の産物だ。それでも終戦間もない荒んだ空気のウ…