遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

難儀

多くの知人が参加しているオーケストラの演奏会を聴きに行った。

その帰り、僕は死にたい気持ちになった。演奏が悪かったのではない。むしろ、大変素晴らしいものだった。高い精度まで洗練されたアンサンブル、個々の技術、熱量、どれをとってもアマチュア・オーケストラに望み得る最高水準だったと思う。だからこそ、僕は死にたいと思ったのだ。

 

演奏会の一曲目が始まった途端「これはまずい」と思った。編成の小ささをものともしない厚みのあるサウンドに悔しさを覚えた。舞台の上には見知った顔が沢山いる。そんな彼ら、いい音楽を奏でる彼ら、ステージで輝く彼らを見るのはあまりに眩しく、耐え難かった。それで僕は今日一度も舞台を直視できなかった。膝の上に乗った帽子を見つめながら演奏を聴く。泣きそうなくらい精緻なアンサンブルだ。最近の自分の演奏がお粗末に思えてくる。だんだんと自分の呼吸が荒くなるのがわかる。早くここから逃げてしまいたい。もう音楽なんてやめてしまいたい。こんな思いをしたのは初めてだ。

 

演奏会後、僕は足早にホールを離れた。知り合いに出くわしてしまえば気が狂ってしまいそうだったのだ。多分僕はああいう演奏はできないだろうし、彼らと共に舞台に上がることもできないのだろう。その悔しさと、無念と、失意を抱えて駅までの道を歩いた。

近くの公園で子どもたちが遊んでいた。老夫婦がベンチで歓談していた。中学生が笑いながら自転車を漕いでいた。どこまでも春だった。

……これだから、春は嫌いなのだ。