遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

春過ぐ

こんなはずじゃあ、なかったんだけどなあ……と、それっぽい台詞を吐いてみる。
時刻は夜七時半過ぎ。過ぎ行く春の夜、今日もぼくは何も生み出せずに一日を終える。

たぶん、こんな毎日を死ぬまで続けて、何者にもなれないまま終わるのだろう。

自室に―見るのが厭になるほど汚い六畳間に―いても何ら生産性のある活動もできないので、今日も研究室に来た。やることはたくさんあるのだ。研究費応募の書類を書いて、投稿するつもりの論文のアイディアを少し練って、来月に控えた発表の構想をして― ラップトップに向かいながらあれこれしたはずなのに、何もしていないような気分になる。目に見える成果物がないということはなかなかに辛い。
今日はゼミの日だ。研究室は一週間でいちばんの賑わいを見せる。先輩も同輩も後輩もみんなぼくより優秀で、活力に満ち、人生を謳歌しているように見える。隣の芝生は青いものだし、人には人の地獄があるものだとは思うが、この場合重要なのはあくまでぼくの主観である。皆に活力を吸われ、干からびてしまいそうになる。

こんなはずじゃあ、なかったのだ。

毎朝七時くらいに起きているはずだった。毎日一本くらいは新しい論文を読んでいるはずだった。継続して語学の勉強に励んでいるはずだった。毎晩十一時くらいには床に就いているはずだった。学会発表や論文投稿も積極的にしているはずだった。週に二回くらいは「行きつけの喫茶店」に行っているはずだった。週末には友人と遊んだり食事したりするはずだった―いろいろな方面から理想と現実に押しつぶされ、パンクしそうな自分がいることに気づかされる。すべては自分が何もしていなかったことがいけないのに。

もちろんやりたい研究はあるし、一次資料を調査したり関連文献を読んだりして自らの論を立てる作業は大変だ楽しいとも思う。それでも余裕をなくした心身は疲弊しているし、その苦痛は楽しみを上回ってしまうのだ。

それだから今日も独り言つのだ。
こんなはずじゃあ、なかったんだけどなあ、と。