遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

夜のいちばん高いところ(修論日記 11-14日目)

阪急梅田駅は、終電が近づくと『第三の男』のテーマが流れる。かくいう私は当の映画を観たことはなく、小説版を読んだことがあるのみである。だから、この作品に対して私が抱く視覚的イメージは、全て私の想像の産物だ。それでも終戦間もない荒んだ空気のウィーン・プラーターの観覧車で主人公と"第三の男"が会話をするシーンは印象に残っている。映画においてこのテーマ曲がどこで流れるのかは恥ずかしながら知らないが、私にとっては『第三の男』といえばあのテーマ曲とプラーターの観覧車が二大アイコンのように見えているのだ。
すると『第三の男』のテーマが終電間際—深夜0時に流れるというのは、なかなか魅力的な事象に思えてくる。時計盤を観覧車に見立てると、その最高点は「12」の位置である。我々を乗せた時間とマルーンの列車は、あかたも観覧車の如く、夜のいちばん高いところを通過する。阪急梅田駅に響く『第三の男』を聞くたびに、私の頭にはそんな妄想が膨らんでいくのだ。

終電なんかに乗ることになっているのは日帰りで名古屋に行っていたからである。もうすぐ演習発表もあるのになんと余裕なことか。その埋め合わせというわけではないが、翌日は粛々と発表原稿を書いた。