遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

大きな服に慣れていく(修論日記 9-10日目)

朝、窓を開けると金木犀の香りがした。天気は雨。雨がその芳香を運んできたかのようだ。 僕は愚かだった。外に洗濯物を干すことができないのに洗濯機を回し始めてしまった。それだけで気持ちが沈む。 せっかく早起きができたのに、そんなことで凹んでしまい…

青春(修論日記 7-8日目)

大阪・福島はザ・シンフォニーホール。普段は開演時間までに暇を潰すための文庫本が鞄の中にぶち込まれているものなのだが、今日に限ってそれが無い。仕方なく、ファイルに入れてあったホチキスで留められた10枚ほどの紙束を眺める。独文の演習で読むツヴァ…

情報の渦に対峙する(修論日記 6日目)

高校生の頃、バーンスタインの『キャンディード』序曲を演奏したことがある。楽曲の後半、楽器群ごとに拍子が入り乱れ、それぞれがそれぞれのフレーズを反復し、どんどん混沌としていく箇所がある。タクトを執っていた顧問は、それを「証券取引所のテロップ…

考える暇を与えない(修論日記3-5日目)

忙しい三日間だった。月曜日は夜行バスで小倉から帰投した後にオーケストラの練習。火曜日はゼミのあとアルバイトを挟んで研究室で飲み会。水曜日は楽器のレッスン。短い間にタスクを詰め込むと破綻しそうになるが、そうしないと結局何もやらない人間になっ…

まだ生きている(修論日記 2日目)

ことしの「あいち2022」では河原温の作品《I Am Still Alive》が象徴的に用いられている。この作品をはじめ、河原温は単純な「記録」を表現手段とした作品を多く残している。それと多少は関係するのだろう、今回の「あいち2022」には「記憶」を作品の重要な…

哲学的意味(修論日記 1日目)

先日、《プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード》を実演で聴いた。ケージの代表作と言っていい作品だ。静かなコンサートホール、ピアニストとピアノに向けられたスポット以外が落とされた暗い空間、その中に響く風変わりなピアノの音。どこか…

果てしなき、と言うほどでもない逃走(修論日記 0日目)

学部の後輩が院試に合格したらしい。 つまり、ぼくが院試に合格してから2年が経過したことになる。この2年間でろくに学術的発展に寄与していないのは今までも愚痴混じりに書いてきた通りである。修士課程2年、秋。やるべきことは何かと問われれば修士論文執…

余裕がないのに余裕なふりをする

四月の末から今日に至るまで、某研究費の申請書を教授に添削してもらっては書き直す毎日を過ごしている。文章を書くこと自体は恐らく苦手ではないのだが、申請書のようなフォーマットを書くのはあまり得意ではないのだと認識した。筋道を通せばいい研究計画…

帰郷

二年ぶりの故郷は冬の中にあった。 大阪からおよそ四時間半。新幹線と特急とを乗り継ぐと、盆地の真ん中に人口二十万余の中都市がある。ぼくが高校卒業までを過ごしたのは、そんな都会と呼ぶには大袈裟だが、田舎と呼ぶには大きすぎる街だった。 元日昼頃に…

師走が行く

なんの実感もないまま、12月29日となった。恐ろしいことである。あと今年も残すところ2日なのだ。 私は、本邦の多くの人がそうであるように4月に始まり3月に終わる年間スケジュールで生きている。そのため年を跨ぐことは別に何かの区切りとなるわけではない…

アマオケざっくばらん

世は大アマオケ時代……と言えるかどうかはさておき、本邦には多数のアマチュア・オーケストラが存在する。ここ2年は演奏会の開催どころか練習さえままならぬオーケストラも多かったと思うが、今日も演奏会情報を調べればどこかしらのオケが本番を控え、Twitte…

やりたいこと、やるべきこと

別にタイトルは折木奉太郎の影響を受けたわけではない。一応形の上では新しい生活が始まって4ヶ月経つが、別に見える景色が変わったわけではない。同じ研究室で、そんなに変わらないテーマを掘り下げている。 とはいえあまりにやるべきことをやらなさすぎた…

たまにはゆっくり歩けばよいものを

何をするわけでもなく日付が変わった。ぼくは基本的に家で生産的な活動を行うのが苦手で、これに関しては半分諦めている。では寝ればよいではないか、という話なのだがこれもできない。あと2時間もしたら新聞配達店に出かけ、原付を相棒としてこの国のジャー…

G管バストロンボーン

G管バストロンボーンという楽器がある。現在のバストロンボーンはテナートロンボーンと同じB管を基本とし、そこに2つないしは1つのバルブを付けることで低音域を可能としている。しかし、そもそものバストロンボーンはF管の楽器であり、故に長いスライドを備…

螢狩

螢の大群は、滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へ天空へと光彩をぼかしながら冷たい火の粉状になって舞いあがっていた。 四人はただ立ちつくしていた。長いあいだ、そうしていた。 —宮本輝『螢川…

春、理想的な1日

珍しく早起きができた。それだけで気分が良いというものである。 顔を洗い、コーヒーを淹れる。友人に貰った美味しい食パンにマーガリンを塗り、一つにハムとチーズを、一つに砂糖をかけてトースターで焼く。なんと理想的な朝であろうか。 春の日差しが暖か…

急行妙高(風)をつくろう その1

年が明けて1週間も経っていないが、個人的にはものすごく密度の高い6日間だった。卒論の最後の追い込みをしていたら文章や出典を大量に追加することとなり、何度も印刷をやり直し、やっと最終稿ができたのが昨日のこと。 本日無事卒論を提出し、また誕生日を…

新年に寄す

あけましておめでとうございます。怒涛の2020年が終わった。この状況下で帰省するわけにもいかず、そもそも卒論が佳境を迎えているので帰省どころでもなく、越してきて四年目にして初めて大阪で年を越した。昨年は公私ともに忙しい一年だった。 まずこのコロ…

文系大学院(文学部・文学研究科)受験記録

世の中にあんまり文学研究科の院試体験記ってないなあ、と思ったので記録しておきます。半分は自己顕示欲の塊みたいなもんですが、半分は不安に駆られて「文学部 院試 勉強」などと検索した人を想定して書いています(自分がそうだった)。ちなみに専門分野…

ご報告(院試日記 後日譚)

大学院、無事合格していました。準備期間はそれなりにあったはずなのにあっという間に終わってしまい、ちょっと拍子抜けしている面もあります。大事なのはこれからですが、ひとまず来年度から身を置く場所がきちんと決まったことを祝してピルスナーウルケル…

ひと段落(院試日記 137日目)

夜9時に布団に入ったのに少しも眠れなかった。たぶん、深夜2時までは起きていたと思う。筆記試験が朝9時から始まることを思うと寝坊する危険すらある時間だ。本当は早めに起きて軽く勉強するつもりだったのに、結局朝6時と言う至極真っ当な時間に起床した。 …

宣告を待ちながら(院試日記 136日目)

台風12号は大阪をそれ、東日本方面へと向かっている。院試は傘なしで済みそうだ。 いよいよ、明日なのである。正直全く勉強が身に入らない。今更何をやっても……と半分諦念を覚えている。専門に関しては古代ギリシャから21世紀までの長い時代のうちどこから出…

時の過ぎゆくままに(院試日記 134,135日目)

我が家の壁に掛けてある時計には"As Time Goes By"と書かれている。 時は流れ、いつのまにか季節は秋になった。やっと大好きなベレー帽を解禁できることに喜び、コンビニでクリスマスチキンの予約の紙を見かけて「あまりに早くはないか」と思う今日この頃で…

カウントダウンがはじまる(院試日記 122-133日目)

悠々とブログを更新している余裕が時間的にも心の上でも無くなっていた。院試まで10日を切り、1週間を切りとしているうちに慌て始め、美術史を必死で詰め込んだり、英語を泣きたい気持ちで読んだり、独語をさらい直したりしているうちに急に糸が切れたように…

人間らしい生活(院試日記 119-121日目)

日を跨がないうちに寝て太陽が東にあるうちに起きるという人間らしい生活を最近できずにいる。そもそものリズムが崩れているせいで早く布団に入ってもなかなか眠れず、深夜に目が覚めてしまう。そしてそのまま起き続け、午前中に仮眠をとる、という不摂生な…

驟雨と日照の間で(院試日記 117,118日目)

生活リズムが狂う日、すなわち朝寝坊する日に限って可燃ゴミの日なのは何かの因縁なのだろうか。まあこれは単なる言い訳に過ぎない。第一、多少遅く起きてもごみ収集車はまだ来ていないのだから。来週1週間は大阪市内の博物館で朝から研修だというのに、これ…

涼を求めてシベリウス(院試日記 116日目)

昨日は夜眠れなかったので朝に仮眠をとって活動した。眠気は残るが午前中に勉強を始められたのでよしとしよう。 日中は研修に必要な学研賠の申請をしたのち研究室に置いていた本を取りに行き、ついでに図書館で本を借りた。パノフスキー、ヴェルフリン、ゴン…

そして夏が終わる(院試日記 106-115日目)

米澤穂信はぼくの好きな作家のひとりである。その中でも特にお気に入りの作品が『夏期限定トロピカルパフェ事件』。夏期限定トロピカルパフェ事件 - 米澤穂信|東京創元社かわいらしい表紙を纏いつつここまで苦くざらざらとした読了感を抱かせるとは、なかな…

出願(院試日記 103-105日)

研究概要と志望理由書を書き終え、20日に無事出願書類を送付した。ひとまず受験前にやるべきことは終えたことになる。プレッシャーに弱いが故、出願したその日は何度も吐き気に見舞われ、口から胃液混じりの泡を吐き、その後泥のように眠った。机の周りには…

無駄足(院試日記 98-102日目)

研究概要をあらかた書き上げ、レポートを終わらせてなんとか一息つけそうである。 さて去る日曜日にエンゲルスの『住宅問題』が必要となり、図書館に借りに行くことにした。大学図書館は休みな上に返却を滞納したせいで数日間貸し出し禁止のペナルティを食ら…