遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

G管バストロンボーン

G管バストロンボーンという楽器がある。

現在のバストロンボーンはテナートロンボーンと同じB管を基本とし、そこに2つないしは1つのバルブを付けることで低音域を可能としている。しかし、そもそものバストロンボーンはF管の楽器であり、故に長いスライドを備えていた。当然腕の長さでは遠いポジションは届かないためハンドル(つまり把手)を用いて演奏していたのだ。しかしこの楽器は使い勝手の悪さとバルブ機構の開発・発展により衰退していくこととなる。
一方、詳しい経緯については知らないのだが、いつ頃からか英国においてはG管のバストロンボーンが使われていた(これはF管があまりにも扱いにくいため短くしたと聞いた記憶があるが、正確なことは知らない)。F管よりも短いとはいえ、こちらもスライドにはハンドルが付いている。おそらく、エルガーホルスト、R.V.ウィリアムズらはこの楽器を念頭に曲を書いたのだと思う。

G管バストロンボーンは20世紀以降もそこそこ長く使われていたようで、ネット通販やネットオークションを覗いてみると割とよく出品されている。そしてこの度、前々から気になっていた手頃な値段のG管バストロンボーンを購入したのだ。購入してから1日で届いたのは驚きだった。出品者の方の迅速な発送に感謝である。

購入したのはW. Brown&Sons社(ロンドン)製のもの。製造年代は不明だが調べてみると1883年〜1911年にかけて同じ刻印の楽器が製作されているらしい。仮に100年以上前の製品だとすれば状態は良いと言えるだろう。小さな傷やへこみこそあるが管体は綺麗だし、スライドやチューニング管はスムーズに動く。

いざ持ってみると普通のトロンボーンに比べて滅茶苦茶に長い!という感じはしない。それより驚くのは管が細く、ベルが小さいことだ。この頃はまだバストロンボーンと雖も細管が主流だったのだろうか。ちょうどドイツシャンクのテナー用のマウスピースがあったのでそれを嵌めて吹いてみた。
1番ポジションでGが鳴るのはなかなか不思議だが、G管なのだから当たり前ではある。ハンドルを駆使して7番ポジションまで伸ばしてみる。操作性は無論良くないが、ロマンはある。これでバルトークのオケコンの例のグリッサンドも余裕である。
せっかくなのでメイン楽器であるB&Sのバストロンボーンと並べてみた。持った時はそれほど長くは思わなかったが、やはりB管ベースの現代の楽器と比べたら長いものだ。G管がそこまで大きさを感じさせないのはベルの小ささ故かもしれない。

単なるコレクションとしても良いのだが、これは是非とも実演で使用してみたいものだ。英国ものの乗り番があればきちんと練習して挑んでみたい……!そう思わせてくれる良い楽器だった。