遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

新宿の思い出

今日から三日間、オペラ公演と演奏会の鑑賞のために東京に滞在する。初日は初台の新国立劇場で『タンホイザー』。初台は京王新線で新宿から一駅だが、歩いても15分程度で行くことができる。宿も新宿駅から徒歩圏内のビジネスホテルにしたので、今日は新宿で一度降りてしまえば徒歩移動だけで済む。

タンホイザー』はかなり楽しむことができた。演出は控えめだが、歌手陣の歌いっぷりは見事なもので、特に第二幕以降はなかなかの長丁場にもかかわらずちっとも飽きさせない。満足しつつ帰路(?)に就く。

宿は新国立劇場とは新宿駅を挟んだ反対側にあるのでそこそこ歩かねばならない。適当な入口から入って構内を抜け、適当に歩いて反対側に行き着く。地方出身、関西在住の僕にとっては歩き慣れない駅だ。今でこそマシにはなってきたが、高校生の頃など目的のホームにたどり着くにも一苦労だった記憶がある。

あれは確か高校一年の冬だったと思う。当時長野県は松本市で華の(?)高校生活を送っていた僕は、友人と共に高速バスで東京旅行に行った。目的は陸上自衛隊中央音楽隊の演奏会を聴くためだった。松本駅前を早朝に出発したバスは、8時か9時かに新宿に辿り着く。当時はバスタ新宿はまだ無かったので、西口のどこかに降ろされたはずである。さて信州からノコノコ出てきた高校生二人がまず直面した難題は、新宿駅に入れないということである。入口らしき入口を見つけられなかったのだ。別に東京に来たのは初めてでは無いが、大人の引率無しの旅行は初となると、こんな単純なことも分からなくなってしまうのだ。近辺をウロウロしているとスバルビルという名のビルがあった。かつて僕が母と姉の三人で東京に行った際、「スバルビル入口」という名前の入口から入ったことを思い出し、そこから階段を下って新宿駅に入ることができたのだ。

さて新宿駅に入れたはいいものの、今度はホームの場所がわからない。旅行日程としては、まず新大久保の管楽器屋さんを見物する予定だったので山手線に乗りたいのだが、肝心のホームへの行き方がわからないのだ。とりあえず落ち着こうということになり、近くにあった適当なカフェに入った。ユーロカフェ、という名前だった。確かホットココアを頼んだはずである。そしてそこそこいい値段がした記憶もある。

その後無事に山手線に乗って新大久保の管楽器屋さんに行き、次に神保町で本屋さんを見て三省堂書店で所謂「藝大和声」を買い、カレーを食べ(小さな茹でじゃがいもが付いていた。とてもおいしかった!)、演奏会場のすみだトリフォニーホールに向かう—そんな旅だった。演奏会のプログラムに含まれていたバーンズの《詩的間奏曲》が非常に美しかったことは今でも覚えている。

 

大学に進学してから、距離的には遠くなったはずなのに行く頻度は増えたせいで、東京という街の持つ特別感はほぼ無くなってしまった。それでもまだ、新宿駅の構内では方向を見失いそうになることは、ある意味では「特別感」と言えるのかもしれない。

 

調べてみるとユーロカフェは昨年11月に閉店してしまったらしい。もう一度だけ、ホットココアを飲んでおけばよかった。