遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

外に出る

「一人では多すぎる。一人ではすべてを奪ってしまう」と述べたのはウィラ・キャザーであった。これは恋愛についての話で、一途なぼくは「これはないだろ…」と思ってしまうのだが、しかし生活についてこれを当てはめるとなるほど、と思わせられる。

 

昨年の冬。ぼくはとてつもなく辛かった。その理由は分からない。然し、根底にあるのは所属する大学オーケストラを軸に回っていた生活であることは明らかだった。良くも悪くも閉鎖的な環境の狭い人間関係の中、ぼくは疲れていた。漠然と感じる疎外感や閉塞感、個人的な悩み。そんなはずもないのに、ぼくだけが回りゆく世界から外れているように感じたのだ。仲の良い人にもぼくの知らないコミュニティがあって、それは当然なのに悔しかった。

ちょうどその頃から、ぼくは大学外のオーケストラに積極的に顔を出すようになった。一緒のセクションだったメンバーがよくしてくれたのもあるだろう。新規のオーケストラの旗揚げにも少し関わらせてもらった。学年が変わる頃には研究室にいる時間も長くなった。こうしているうちに大学オーケストラ以外での時間が増えたのだ。

 

今までぼくにとっての世界は大学オーケストラただ一つであり、そこにしがみつくしかなかった。その糸が切れてしまえばもうぼくは奈落に落ちるしかなかったのである。居場所が増えることは、他の居場所で溜まったガスを健康的に抜くことに繋がり、そして逃げ場を作ることなった。一つの場所に執着する必要がなくなったのだ。

 

逃げ出したい時は逃げ出せる場所を作っておくことが実は大事なのかもしれない、と思う今日この頃である。