遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

深夜にオムライスを作った話

一昨日、きちんと人間らしい時間に起きて生活のリズムを矯正したと思ったら、もう崩れてしまった。昨日は起きたら昼だったのである。

 

三時くらいにうどんを茹でて食べて、その後一時間かけてオケの練習に向かい、楽器を吹き—という一連の行動で確実に気力は削がれていく。腹が減った。しかし、財布の中にはたった三百円しか無いのである。

思わず、下宿最寄駅のホームのベンチでぼーっとしてしまった。急行を二本、普通を一本見送った。目の前をアベックが通り過ぎるたび心が冷え冷えとした。

 

IQが著しく下がっていたので、駅前のマクドナルドでハンバーガーを放り込んでしまった。百円で買える人権である。いや、マクドナルドに人権は無いか。とは言え、フランス・ベルギーに旅行に行った友人は食に困ったら二ユーロ出してハンバーガーを二つ買っていたという。世界的企業はやはり心強いものである。

 

マクドナルドの薄いハンバーガーひとつでお腹いっぱいになる男子大学生がどこの世界にいるのだろう。当然、足りないのである。

帰宅したぼくはそそくさとシャワーを浴び、寝巻きに着替え、その日のうちに床に就いた。偉い。しかし、二時間経っても眠れる気配がないのである。

 

オムライスが食べたい。

 

なんの前兆もなく、そう思った。その五分後にはぼくは米を研いでいた。

母親は所謂「拝み洗い」をしていたので、当然ぼくもそれが普通だと思っていた。ところが世間はそうではないらしい。そんなことを思いながら、ぼくは頑なに両手を擦った。なむなむ。

冷蔵庫には卵もあるしケチャップも玉ねぎもある。鶏肉はないのでチキンライスは作れないが一パック七十二円のベーコンがある。上等だ。

さて、我が家にはIHコンロが一口しかないので、オムレットを作る工程とケチャップライスを作る工程を同時に行えない。あと、単純にフライパンを一度洗うのが面倒くさい。そこでぼくは炊飯器でケチャップライスを作ることにした。

研いだ米の上にたっぷりのケチャップ、少しトンカツソース、それから塩胡椒を入れてよく混ぜる。その上に切ったベーコンと刻んだ玉ねぎを乗せ、水を注ぐ。そして早炊きで三十五分である。

 

その間はぼーっとしていた。有意義な時間の使い方はぼくには向いていない。

 

炊飯器が残り五分を指したところでオムレットの準備だ。バターをフライパンで溶かし、弱火にしてから二玉ぶんの溶き卵を半分注ぐ。固まったところを見計らって残りを入れる。その間にケチャップライスをラグビーボール型に盛り付ける。卵がとろりとしてきたら半分にたたみ、ライスの上へ。見栄えは悪くない。

 

せっかくだからケチャップで何か文字を書いてみよう、と思った。

パッと思いついたのはこの一文だった。

 

„Ich weiß“

 

ロベルト・シューマン最期の言葉である。

 

かくして深夜二時に「シューマンオムライス」が食卓に現れた。ライスはもう少し水かさを増やして炊いた方が良さそうだ。具や調味料を入れたぶん、釜の線より上にするべきだった。そのほかはまずまずの出来か。それにしてもいつか半熟のオムレットを成功させ、タンポポオムライスを実現させたいものである。

 

また、不健康な時間に眠くなってしまった。七時間後には学芸員実習が始まるというのに。