遥か、もち巾着。

もしもって思ったら何かが変わるわけでもないし

来期のスコア

バイトから帰ってくると郵便受けに白い大きな封筒が挿さっていた。次の定期演奏会で演奏するブラームス交響曲第2番のスコアが届いたのだ。

 

品のいい薄い空色の表紙をしたブライトコプフ・ウント・ヘルテル社のスコアを見るだけで心は躍る。中を展くと生真面目に並んだ音符が、この寛いだ空気を湛えた交響曲を奏でている。

 

冒頭からページをめくる。ニ長調の牧歌的な旋律のなんと素敵なこと。噫、ブラームスはいいなあ…

交響曲第1番の完成からおよそ1年。20年を費やした第1番と対照的に一気に書き上げられた交響曲第2番は伸び伸びとした明るい気風に満ちている。なんとなく聴くには難しい気がしてブラームスを避けていた高校生の僕に、ブラームスの良さを気づかせてくれた曲がこの2番だった。他の3つの交響曲と通じるエッセンスも多く、ブラームス作品を聴くきっかけになったのだ。その曲を出来ることが嬉しくて、スコアを眺めるだけで頬が緩んでしまう。口ずさむフレーズのどれもが素敵だ。

 

昨今のコロナ禍はいつ収束するのか皆目見当もつかず、夏になってもどうなっていることか正直不安である。定期演奏会が流れる可能性もあるだろう。それでも今はブラームスの旋律に浸かって現実を忘れていたいのである。